はっきりした目標がないまま日本で美容師を続けていた彼に先輩からある一言がかかる。
「オーストラリア行かへんか?」
迷いに迷ったが目標のなかった彼は行くことにした。
今まで経験したことのない外国人相手に苦戦することも多かったが、何ヶ月かするうちに少しずつ感覚を掴み始めていた。
その経験からハサミ一本を持って世界一周することに決めた彼は、インドの東端のコルカタという町にあるマザーテレサが身を捧げた”マザーハウス”に着く。
ボランティアには興味はなかったが、髪が切れるなら、、という気持ちで向かい、シスターに連れていかれた場所で子供達の髪を切っていた。ハンディキャップを持つ子供たちが集まるところで「次にいつ切れるかわからないからできるだけ短く切って」と頼まれる。
全員を切り終えて周りを見ると、机に伏せている1人の女の子がいた。
「あの子はどないしたん?」
と尋ねると
彼女は自閉症で自分で立つことも、話すことも、歩くこともできないという。
彼は、「俺、最後にあの女の子の髪の毛、切りたい」
と思い、シスターに手伝ってもらい椅子に座らせた。
「可愛くしたるからな」
クロスをつけて、伸び切った髪を肩のラインで「スパンッ」と切った。
肩を叩きその髪の毛を鏡で見せると、、
それまでぐったりとしていた彼女は自ら体を起こし、にこっと笑って彼の手を取り園内を歩き出した。
しばらく手を繋いで歩いた後に、彼の顔を見て
声は出ていないけど「サンキュ」って
彼は涙がこらえられなかった。